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他人の目を気にしない奴が羨ましかった。
クラスにそういう奴がいたんだ。学年テストでいつも一位を取ってる女だ。昼飯も一人で食べて、委員会にも属さず、部活動もせず。化粧もせずに、髪も伸び放題さ。人目ってやつを全く気にしていない女だった。青春を一秒たりとも謳歌しておらず、モラトリアムの欠片もない女だった。寝ても覚めても勉強。気が狂ったように勉強。何が楽しくてそんなに勉強しているんだか。
あんまりにも気が狂っているように見えたんで、僕は彼女に訊ねたんだ。
「どうして、そんなに勉強をするんだい」ってね。
そしたら、彼女はなんて答えたと思う?
僕は、目の覚めるような思いがしたよ。
彼女は、こう答えたんだ。
「あえて言うなら、極めて穏やかな自殺をするためよ」ってね。
その時、僕はぎょっとして、それ以上深くは聞かなかったんだ。
でも、それから寝付けがすっかり悪くなってしまった。
彼女の言う、「極めて穏やかな自殺」という単語が頭の中をぐるぐるぐるぐるぐるぐるとうっとおしいコバエみたいに飛び回っていたわけだ。
安眠を求めて、いよいよ僕は彼女に訊ねたんだ。
「この前言っていた、極めて穏やかな自殺ってなんだい?」
意外にも、彼女はあっさり答えてくれた。
「死ぬまで永遠に眠り続けるのよ」
僕は、気付けば彼女の手を取っていた。
「その話、詳しく聞かせてくれないか」
彼女は「言いわよ」と、擦れた声で言った。
彼女曰く、「クライン・レビン症候群」という病気があるらしかった。
別名、眠れる森の美女症候群。その名の通り、一度眠ってしまうと数日から数週間は目を覚まさないという睡眠障害らしい。世界でも千例にも満たない症例で、その原因は解明されていないようだった。
「私は、この病のメカニズムを解明する。メカニズムさえ分かってしまえば、それを意図的に引き起こすことは容易いわ」
「じゃあ、君はその為に勉強を?」
「ええ、そうよ。差し当たって、国家医師免許を取ろうと思ってね。何をするにも体裁というものが必要だもの」
「君は、どうしてそこまでするんだい」
だって、と彼女は言った。
「この世界で生きていくのは、とても面倒だもの」
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