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その日から僕は、何かが乗り移ったみたいに猛勉強をした。
それこそ、周りの目を気にすることなく。
僕は、彼女の願いを叶えようと思った。
死ぬまで永遠に眠り続けるという極めて穏やかな自殺方法。
僕にとっても、それは魅力的だった。それこそ、寝る間を惜しんで勉強したってお釣りがくるぐらいだった。
授業後には、彼女と二人で教室に残って、下校時間ぎりぎりまで勉強する。
それが、あの日から僕たちの日課になっていた。
「意外だわ」
下校時間を知らせる『家路』の曲を背景に、彼女は言った。
「あなたって、ひょうひょうと生きているから、何も考えていないのだと思ってた」
「そうだな。否定はできない」
「あなたは死にたいの?」
「少し違うな。死にたいという確たる意志があるわけじゃないんだ。正確に言い表すなら、生きていたくない。まあ、君が言った通り、僕も生きるのが面倒なんだ」
「なぜ、面倒だと」
「他人の存在がうっとおしいんだ。何をするにしても、他人を気にして、気にかけてやらなきゃならない。つまるところ、馬鹿みたいに臆病なんだな、僕は」
「分かる気がするわ」
「君も、生きるのが面倒だと言っていたな」
「私は、夢を見ていたいのよ」
「夢?」
「明晰夢って、知ってる?」
「初めて聞いたな」
「自分が夢を見ていると自覚して、その夢をコントロールするのよ」
「夢みたいな話だな」
「現実の話よ。事実、私は明晰夢を見ることが出来るもの」
「僕も見てみたいな」
「コツがいるの。いつか教えて上げるわ」
あなたが永遠に眠る、その時にでも――不器用に微笑みながら、彼女は言った。
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