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それから僕は必死になって勉強をし、有名大学の医学部へと進学した。もとより、頭が良いわけではなかったから、骨が折れたな。寝不足でいつも目は血走っていたよ。それで僕の親は、大喜びだったな。まさか、息子がお医者さんになるなんて、なんてまだ医者にもなっていないのにさ。その動機が、ただ眠りたいだけだなんて言ったら、知ってしまったら、卒倒して永遠にでも眠ってしまうんじゃないかな。
彼女の方は、言うまでもない。僕と同じ大学にトップの成績で入学した。首席というやつだな。入学式で式辞の挨拶を任された彼女は、「こういうのが嫌なのよ」とぼやいていた。
そこからはとんとん拍子だった。医学について一通り学んで、国家医師免許を取得した。これで僕たちは眠れる森の美女症候群を研究するための体裁を得たというわけだ。これがもし、永遠に眠るために研究しているなんて知れたら、僕たちはたちまち火炙りにされるだろうね、なんて彼女と言い合って笑っていた。
大学を卒業した僕たちは、そのまま大学院へ入学した。そこで脳科学分野で第一線をゆく教授の研究室に入って、ありとある設備を利用させてもらったわけだ。もちろん、眠れる森の美女の目を覚まさせるという名目の上で、だ。そこで彼女と教授を交えて、あらゆる視点、角度からディスカッションをした。何を切っ掛けに発症するのか。脳にどのような活動が見られるのか。そもそも眠りとは何なのか――突き詰めることは多く、けれど着実に僕たちは真実に近付いていた。
そうして五年もしないうちに、僕たちはクライン・レビン症候群のメカニズムを解明するに至った。原理が分かってしまえば、それを正すことも、再現することも容易い。論文として、クライン・レビン症候群のメカニズムを取りまとめた後、僕たちは工学部に転身した。いわゆる、ソフトウェアの開発は終えた。いよいよ、永遠の眠りを再現するためのハードウェアの開発に取り組もうというわけだ。
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