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気付けば、僕たちは四十という歳になっていた。
節目を迎えた僕たちは、いよいよ永遠に眠ることの出来る装置の開発に成功した。とある医療系の企業の研究所で、ありとある技術を結集させて完成させたのだ。無論、表向きはただの安眠装置だ。不眠症に悩める人々が、僕たちの開発したカプセルの中に入ることによって脳を制御し、眠りへといざなう。そんな触れ込みで創り上げた『安眠カプセル』を、開発者である僕自身が被験者として試すことになった。
「君が先に入らなくて良いのかい」
「あなたには、コツを教えないといけないでしょ」
いつかのように、彼女は不器用に微笑んだ。
「夢の世界を堪能させてもらうよ」
「そうね」
彼女は、どこか寂しそうに相槌を打つ。
僕は、カプセルの中に入って、仰向けになる。
「これからあなたが永遠に眠ることを知っているのは、世界でも私だけ」
「迷惑をかけるね」
いわゆる、介護が必要となる。
永遠に眠るとは言っても、死んでいるわけではない。
生きるためには栄養を摂取し、そして生きているから排泄もしなければならない。
「良いのよ。私はあなたにとても感謝しているの。あなたがいなければ、こんな夢物語が叶うことはなかったわ」
「礼を言うなら、僕の方だ。君に出会わなければ、僕はただただ惰眠を貪るだけだった」
「そうかしら」
「そうだよ」
「私はね、あなたに出会って、ただ一つだけ後悔していることがあるの」
「えっ?」
いったい何を後悔しているのか。
訊ねようとするけれど、猛烈な眠気に襲われて、上手く口が動かない。
「コツを教えてあげる」
彼女は、僕の手を握って、ささやく。
「ゆっくりと、階段を上るイメージをするの。一段一段、数えながら。一、二、三、四、……そうしたら、あなたはいつの間にか夢の中にいて、その世界が夢であるということが自覚できるわ」
僕は、言われたままに階段を上る。
真っ白な階段を、カツンカツンと足音を立てながら、一段ずつ。
「ねえ、もしあなたが望むなら」
夢と現実の境界を失った、おぼろげな世界で彼女は言った。
「初めて出会った頃の私と、デートをしましょう」
ああ、そうか、彼女は――。
「おやすみなさい」
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