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夢は、高確率で悪夢であった気がする。
それも起きた時には、張り付いた恐怖、悲しみ、苦しみだけを残してその理由は霧がかかって覗けない。
あれは確かに私の感情であったし、体験であった。にも関わらず、その原因は覚えていない。
なんとも気味が悪いじゃないか。
そんなことを彼女に話しながら、コーヒーを飲もうとカップに手を添え覗き込んだ瞬間、コーヒーに移った誰かと目があって、慌てて視線をずらした。
ずらした視線の先には人の話も聞かずに眠る彼女がいた。
はぁ。君は本当に人の話を聞かないな。
ため息をつきながら彼は彼女を眺めた。
彼女の顔は満遍の笑みだった。
ヘラヘラと笑った彼女の顔に、彼はつい、頭に血が上って彼女に掴みかかって投げ飛ばす。
ガンッ。と盛大に彼女の周りに木片が飛び散った。
しかし、彼女は全くの無傷で、変わらぬ笑顔で下からこちらに笑いかける。
我に返った男は静かに涙を流し、ごめん。ごめんと彼女を抱きしめるが、彼女は何も語らない。
もう、疲れたよ。
彼はそう、一言呟いて静かに眠ることにした。
・・・
夢は怖くてつらい、嫌なものであった。
それが嫌いで眠るのが怖かった。
その感情が永遠に続くのが怖くて誰もが無意識に死を恐れているのかもしれない。
でも、彼にとって恐ろしいものは現実になった。
彼にとってつらいのは静かに眠る彼女であった。
彼が遠ざけたかった苦しさはここにあったのだ。
ならば、ここにとどまる理由も無かろう。
彼はそっと目を閉じる。
君が見る幸せな夢を信じて、私も眠ろう。
眠った彼らは、目覚めはしない。
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