0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
漢方少年
人は、漢方薬のみで、ありとあらゆる病に打ち勝てるのか?そんな疑問に答えるかのごとく、「漢方命!!」を座右の銘にして生きている少年がいた。
彼は、幼い頃に風邪を引いた際、普通の市販の西洋薬を服用したおかげで、全身かきむしる程の、蕁麻疹(じんましん)に苦しめられた過去があった。
「漢方薬を試してみては、いかがですか?」
過去のトラウマから、薬に対する拒絶反応が強かった、その少年は、酷い便秘に悩まされていた中学二年生の頃、近所の薬局のオッサンに漢方の便秘薬を勧められた。
「効くんですか?」
「センナを煎じて飲んでみてください。最初は、少なめの量にしてください」
オッサンは、そう言って「センナ」と書かれている箱を少年に手渡した。
「お代は?」
「まず、飲んでみてください。効果が見られて、副作用も少なければ、後払いで構いませんので、お支払いに来てください」
少年は、オッサンの言う通り、分包されたセンナのパックを小児用量だけ煎じて、夜寝る前に飲んでみた。
「まずっ!」
初めて口にするセンナの味は、ほろ苦くて、気持ちの悪い後味が、しばらくの間、口の中に残った。それは、例えば、ファーストキスが、レモン味だとか言う信じたくもない話とは、無縁の味だった。
「出た~!!」
朝六時。少年は、一週間ぶりに頑固な便秘から解放された。
「すげえっ!漢方効いたっ!」
特に副作用も無い様子の少年は、嬉しさのあまり、携帯電話のカメラで、自らの排泄物を撮影して、保存した。
「おおっ!」
それは、長い戦いを制した少年の最初の記録となった。
「そうですか。良かった良かった!」
薬局のオッサンは、そう言って少年に笑顔で、対応した。
「お代を払いに来ました」
「800円です!」
お代を払った少年は、ルンルン気分で、町の中を散策してから、バスで帰宅した。
少年は、大人になって彼女も出来て、仕事も恋愛も楽しんで、充実した日々を送っていた。
彼女から、深刻な相談を受けたのは、6月の半ば頃だった。
「どうしたの……?」
「うん……実は……」
喫茶店で、アイスコーヒーを飲みながら、かつての少年は、彼女の悩みを聞いてあげていた。
「お通じが……無いの。全然……」
彼女は、可愛らしく頬を紅潮させながら、便秘の告白をした。
「ど、どのくらい出てないの?」
「う~ん、かれこれ一ヶ月くらい……」
最初のコメントを投稿しよう!