桜の木の下に

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 今、私の左手の薬指には、控えめに輝く結婚指輪がはめられている。  これを見たら、沙耶はどんな反応をするだろう。 「きっと驚いて、それから」  昔と同じ笑顔で、祝福してくれるだろうか。  あの後、二人はどうなったのだろう。  話たいことがたくさんある。  沙耶は私を許してくれるだろうか。  視線を上向けると、あの頃と同じ抜けるような青空が広がっている。 「良い天気」  笑みをこぼすと私は止まっていた足を再び動かしはじめた。  恋に破れて亡骸を埋めた少女はもういない。  こぼれ落ちた欠片はきらきらと輝いて、思い出を照らしている。  そうして、懐かしい親友との再会を優しく彩ってくれるだろう。    頭上の桜の木はただ緑色の葉を揺らす。  あたたかく、見守るように。
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