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ユウカが洗濯物をしまって寝室を出ると、一人息子が廊下に立っていた。
「あら、ショウちゃん」
ショウはパジャマ姿でクマのぬいぐるみを抱いていた。
ロイと名付けられたそのぬいぐるみをショウはいつも抱きしめているため、だいぶくたびれていた。
ユウカは息子はもう寝たと思っていたので、夜更かしを注意しようと口を開いたとき、
「眠れないんだ……。ママ、何か本を読んで」
ショウはそう言った。
可愛い息子に本を読むことをねだられると、ユウカは何も言えなくなってしまった。
「しょうがないわね……」
ショウは満面の笑みを浮かべた。
ショウの部屋の本棚にはぎっしりと本が並んでいた。
買った本、もらった本。どの本にも思い入れがあり、好きだった。
「どのお話がいい?」
「なんでもいいよ。ママが好きな話で」
ユウカは微笑んだ。
あぁなんてショウは優しい子なんだろう。
そう思いながら、お気に入りの一冊を手に取った。
読み終えた後でユウカは聞いた。
「どう眠れそう?」
「うん」
「明日の準備はしてあるの?」
「うん。着るシャツだって決めてあるし、ネクタイだって選んである。準備はばっちりだよ」
「そう。ちゃんと先輩の言うことを聞いて仕事をするのよ。ほらもう寝なさい。明日も早いんだから」
「はーい、ママ。おやすみ」
ユウカは廊下に出て、小さくため息をついた。
ショウは今年で三十歳になる。
優しくて両親思いの自慢の息子だが、子どものころから持っているぬいぐるみがいまだに手放せない。
おまけに可愛いと思って幼少期から「ママ」と呼ばせていたが、それも抜けなかった。
夜眠れないと本を読んでほしいというのも変わらなかった。
もう大人なのだからどこかで区切りをつけないといけないのはわかっているが、ユウカにとってショウはいつまでも可愛い息子のままなのだ。
毎日、「明日こそは本を読むのをねだられても断ろう」と思っているが、それができたためしがなかった。
ユウカはまたため息をついて、居間へと続く階段を下りていった。
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