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「ねえ、先生」
呼ばれて、僕は手元の文章から視線を移す。
堅牢豪華な天蓋、正絹のベール、純白のシーツ。
窓から差し込む光がベッドを照らしつけている。その真ん中に横たわる少女――ただ一人の生徒である彼女は、真っ黒な瞳で僕を見ていた。
「私、また眠っていたのね」
「ええ、とてもすこやかに」
「どのくらい?」
僕は栞を挟んで本を閉じた。ちょうどこれから犯人を暴くところで後ろ髪を引かれる思いだったが、振り切るように腕時計を確認する。「ちょうど二時間くらいでしょうか」
「今日は調子が良いと思っていたのに」
「天気のようなものです。今日は晴れると思っていても風が強かったり雨が降ったりするように、ご自分では良いと思ってもそうとは限らないのです。気にすることはありません」
我ながら上手な例えだと思ったが、ふうん、と彼女は興味なさげな相槌を打つ。
「授業を再開しても良いですが、どうしますか」
「……まだ少し眠たいわ」
彼女は口元を手で覆い小さく一つあくびをし、彼女はじっと手元を見つめながら言った。「私の、寝間着ではないのね」
どうしてかしら、と彼女は首を傾げる。どうやら頻繁に訪れる眠りのせいで記憶が混在しているのだろう。
「勉強室で授業中に眠られたのですよ。運ぶのは何の苦もなかったのですが、さすがに服を脱がせるわけにもいきませんので。すみません」
改めて考えると女中の誰かを呼べばよかったのだがすっかりと忘れていた。
しばらく頭を軽く下げていたのだが彼女からの返事がいつまでもなく、ちらりと様子を盗み見ると、白く柔らかな頬が赤く染まっていた。
「先生が、私を、ここまで?」
「ええ。あなたくらいなら僕の細腕でもなんの問題もありませんでした」
「本当に?」
「むしろきちんと食事をされているか心配なほどでした。しっかり食べているのを僕も見ているのにもう少し肉がついてもいいのではないでしょうか」
顔中を真っ赤に染めた彼女がじっと口を真一文字に結んでいる。
「ところで、これから眠りますか? 授業が面倒なら本でも読んで差し上げましょうか?」
「知らない!」
そう言って彼女はふかふかとした羽毛の布団を頭かぶってしまい、僕が何を言っても答えてくれなくなった。
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