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「先生、どうかされたの?」 「……どうしてです?」 「なんだかとても悲しそうな顔をしていたから」 「ふと、昔読んだ物語のことを思い出していたのです」  僕は彼女に対する感情を振り払うように意識的に口角を上げた。 「それは、どんなお話しですの?」  僕はとっさに頭に浮かんだ物語を話して聞かせる。郷里に伝わる民話で仲の良かった兄弟が些細なことがきっかけで仲違いをする。弟は嫌っていたはずの兄が鬼に食われたと知り仇討ちをし、もっと早く仲直りをすればよかったという内容だ。  彼女は時折相槌を打ちながら話を聞いていたが、物語が中盤に差し掛かったところで相槌は規則正しい呼吸へと変わった。
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