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「先ほど、首相がおっしゃられていたように彼女の元にいつ神が降りられるのかわからないのだ。眠る時間にも規則性はない。それに対処するには君が常に彼女の元にいなくてはいけない。わかるね」 「わかりますが。女性の隣で寝食を共にするというのは……。万が一間違いがないとは言えませんし」  僕の言葉に教授はプッと吹き出し、よほど笑いのツボにはまったのか大きな声で笑った。冷静沈着な彼が笑うことがよほど珍しいのか首相もぽかんとしている。 「ああ、苦しい」とひとしきり笑い声を上げた教授はそう言った。目に涙が浮かぶまで笑うこともないだろうに。 「失礼したね。今回君を選んだのはその君の類まれな才能ももちろんだが、君にそういったことはできないと思っているからだよ」 「もちろん君の身辺についても十二分に調べされてもらった」  と首相が付け加える。 「それはありがたいことですね」  皮肉のつもりで言ったのだが、海千山千を超えた二人には何も響かなかった。 「それに四六時中ついているわけでもないんだ。彼女が眠りについて一時間。その間に降りなければただの睡眠だ。降りられても戻られた後にふたたび降りる、ということもない。もちろん起きている間もだ」  それだけ聞けば随分と余裕も感じられるが、結局眠ることがいつになるのかわからないので起きている間はほとんど席を外すことはできないだろう。眠りについている間ぐらいだが、恐らく外出するだけの時間はないに違いない。 「睡眠ぐらいはできるんですかね」 「それは彼女と神次第ではないかな」  ああ、と思わず嘆きの声が出た。休みだからと一日中眠るような生活とはしばらくお別れだ。 「最後に彼女には神が降りていることは言ってはいけない。意識してしまえば、邪な考えも浮かぶだろうからね。神は純真無垢な彼女が好きなのだ。彼女自身は病気だと思っている。君もそのつもりでいてくれたまえ」 「わかりました」  もうよいな、と煙草をふかしながら僕と教授の会話を見守っていた首相は指先まで吸った煙草を灰皿でもみ消す。 「君の下宿先にある荷物は後日届けさせよう。もちろん給金も出る」 「大学の方は休学という扱いになるけれど、終わればいつでも帰ってこれるようになっている。もちろん費用も必要ない。安心して行ってきなさい」  そして僕は首相自らの案内で車に乗り込み、いつ終えると知れない彼女の教師となった。
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