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「君が私を取材する最初で最後かもしれない公の記者だ」
そう話す老人は目の前の木製の椅子に腰掛けて、私の目をしっかり捉えている。
「大変だったんですね…」
私の視界に映る老人は顔が、腕が、足が、全身が痩せこけている―服も破れてボロボロだ。
「その哀れみは、何か考えた結果の言葉かい?」
ん?
『哀れみ』、とはどういうことだろう
「と言いますと?」
老人はその返答を聞くや、渇いたように弱々しく笑った。
「はっはは、その『大変だった』という言葉は結局は同情にしかならないのでは、というヒトの考えを耳にしたことがある。わしはまさにその通りだと思うのだよ…。我々いじめやハラスメントといった現代的な殺戮行為に遭った者は、いや、ワシのような『心』は時にその死なんとする自身を癒してくれる、そしてその前に優しく受け止めてくれる、寝床が必要なんだよ」
「…なるほど」
記者である私はあまり合点がいかなかった。
しかし先程より緊張が解けたので、視界が広くなるとともに自らのいる場所を改めてはっきりと認識した。
暗い
そんな場所に照明が一つ、弱々しく私達を照らす
「では、あまり時間がないからワシの身体とワシ自身―心が生きてきたこれまでを語ろうかの」
「ワシはその出来事が立て続けに続いたことですっかりそれに取り憑かれておる。要は昔のトラウマに囚われておる」
私は胸ポケットからボールペンを取り出し、手元のメモ帳に老人から出る言の葉を残さず植えた
「ワシはいじめを受けたんじゃ。中学生だった時に初めてな」
いじめか…酷いものだとは聞いていたが心が発現したこの老人を見る限りそれが殺戮と表現されるのも合点がいく
「それは部活動でじゃった。ワシは元々その活動において下手じゃったがそれでもそれが好きじゃったから始めた。しかしその見てくれも世間の矮小さからは揶揄されるものじゃったからたちまちいじめのターゲットにされたのじゃ。
そのいじめは、罵り、罵り、それは殺しじゃ。言葉だけじゃったがそれは周囲から見えない。傷付いてると、傷付けてると誰一人分からない。毎日泣いたが家のインターホンを押す前に涙を拭いて帰ったよ」
記者の彼女は老人のものと同じような椅子に座って話を聞いている。だが、その姿勢は初めより前傾となっている
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