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寝相がひどい、というのは、普通はそれほど問題になることはない。
ベッドから落ちたり、掛け布団を蹴飛ばして寝冷えしたりと、その程度のトラブルはあるかもしれないが、それ以上に困る事は通常はない。
とはいえ、太郎の3年前からの寝相のひどさは、常識の範疇を超えたものであった。眠りが深くなるに従って宙に浮くことは日常茶飯事で、他にも体が8割以上金属になったり、怪音を全身から発したり、7体に分身したりと、様々な超常現象が太郎の寝室で起こった。
一言で言えば、太郎は寝ている間だけあらゆる物理法則を超越する事が可能な特異能力者であったのだ。
ただ、太郎が目覚めると、そういった現象は痕跡も残さず終息するので、太郎が自覚するのは自分が起きたときのひどい寝相だけであった。また、太郎にこの力が発現したのは太郎が1人暮らしを始めてから後で、太郎の能力を知るものは誰もいなかった。
毎晩、太郎の寝室では奇跡と言っても差し支えのない事象が発生していたが、それらは誰にも観測される事もなく、太郎の日常に何の影響も及ぼすことはなかったのだ。
そう、太郎にこの力が発現してから3年目となる、今晩までは。
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