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中国の故事に、邯鄲の枕というものがあることを太郎は知っていた。ほんのひと時の眠りの間に、人生全てを体験したかのような夢を見てしまうその故事と、自分のこの体験は同じ事ではないか? その理解で太郎を含め、この世界の誰も困る事がなかったので、太郎のこの体験の事は、結局誰にも知られることはなかった。 また、「一晩の夢」という太郎の理解は、理屈はともかく現象の本質にかなり近いとも言えた。最初に、太郎が寝相の力を発現するようになってから、時間軸に作用して「虚数時間」になってしまうまでに3年。それから、「虚数時間」を過ごした時間を、虚数をiとして表すと、3i年。その後に「マイナス時間」を3年過ごしたのは、つまり-3年。さらにその後に「マイナス虚数時間」を過ごしたので、-3i年。 全部合計すれば、(3+3i-3-3i)=0、となり、客観的には時間の経過はなかったこととなる。「一晩の夢」という結論に、太郎が辿りついたのは、偶然とはいえ本人にとっても良いことであったと言えよう。 また、余談ではあるが、太郎にとってもう一つだけ、良い事があった。
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