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不思議なことはたくさんあった。まず、スマホでの通話やネットは、全てどこにもつながらなかった。窓の外に向けて大声を出しても何も起こらず、誰か他者に助けを求めることは不可能であった。 また、寝室にいる間、生理現象で困ることはなかった。空腹にならないし、排泄もしたくならなかった。身体が不潔になるような感覚もないため、風呂に入りたいとも思わなかった。 ただ、ずっと起き続けている事は不可能で、睡眠は太郎に必要であった。また、起きている間の太郎の努力が何か実を結ぶという事がまるでないために、次第に太郎は気力を失い、寝てばかりいるようになった。 それは皮肉な事に、太郎がこの状況から抜け出すためには最適の手段であった。 なぜならば、これは太郎が寝ているときに、物理現象を逸脱する太郎の寝相の力の発現によって、太郎とその寝室の時間軸がずれてしまったことによる現象であり、太郎は現在、「虚数時間」の住人となってしまっているのである。 虚数というのは、二乗すると’マイナス1’になる性質の数であり、それが作用した「虚数時間」というものを通常の人間が体験するのは恐らく不可能だが、概念としては通常の時間軸に対し、垂直に交わるまったく別の時間軸として示す事ができる。     
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