36.会津藩

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 京都御所の東に位置する金戒光明寺・通称黒谷(くろたに)。  嘆願書に目を通すのは、会津藩主・松平容保である。  その様子を、ずらりと並んだ会津藩士たちが見守っている。 「広沢。そちはこの浪士組に会ったと申しておったな」 「はっ。そちらにもございます組頭を名乗る芹沢、近藤両名と少し話をしました」 「やはりその者らが組頭であるか。この嘆願書を持ってきた殿内という男は、自分が組頭だと主張しておったのだが」  容保は嘆願書に視線を戻した。書面の先頭には芹沢、近藤、の順で名前が並んでいる。 「それは存じ上げませんでしたが…」広沢は口ごもった。 「殿、誠にそのような怪しい連中を会津で預かるおつもりですか」苦言を呈したのは藩士の山本覚馬(やまもとかくま)。西洋式砲術の知識に長け、重用されている人物だ。 「確かにこの者らは素性の不確かな浪人たちだ。だが、広沢、そちの目で見た彼らは如何であった」 「はっ。彼らは徒党を組み、市中の警護と称して見回りをしておりました。危害が加えられたという報告もなく、その点については真かと思います。それに」   広沢は一息つくと、まっすぐに容保の目を見た。 「近藤勇という男。あの目には一点の曇りもございませんでした」    その言葉を聞いて、容保は嬉しそうに頷いた。 「決めた。浪士組を京都守護職の預かりとしよう」 「しかし、殿…」まだ不服そうな山本は苦虫を噛み潰したような顔をした。     
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