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源三郎の父は日野で周助の出稽古を受けているが、時々源三郎を連れて試衛館に来るのであった。さくらは以前から源三郎を兄のように慕っていた。
「源兄ぃはいいよね。男だから」
「はあ?」
すると、庭に面した部屋から初が出てきた。
「まあさくら、どうしたのです?」
「母上…っ」
こらえていた涙が溢れ出し、さくらは声を上げて泣いた。
縁側に座った初は、駆け寄ってくる娘を優しく抱きとめた。
さくらは泣きながら事の次第を説明した。初も源三郎も、ただ黙ってさくらの話を聞いた。
「母上、さくらは悔しいです。信吉は、男だからって威張るのです。さくらは女子のくせにおれたちと喧嘩するなんて馬鹿だって…母上、さくらも男に生まれたかった。どうしてさくらは女子なの…?」
初は力なく微笑み、さくらの頭を優しく撫でた。
「さくらは、男に生まれればよかったと思うのですね?」
さくらはこくり、と頷いた。
初は周助がなぜ、娘にさくらという名をつけたのかと優しく話した。さくらは泣くのをやめ、初の目を見据えた。
「私たちは、男かとか、女かとか、そういうことではなく、さくらが生まれてきてくれてよかったと、本当にそう思っているんですよ」
「じゃあ、どうして父上はさくらに剣術を教えようとするのですか?」
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