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「はは、まあ確かにな。いたずらしたい盛りなんだよ。おれもよく近所で柿の実を失敬したりしてたし」
「それなら、よそ様に迷惑をかけないだけ惣次郎はましだな」さくらは皮肉っぽく言った。
「でも、最初のころの惣次郎より、今の方が断然いいな。なんていうか、生き生きしてる」勝太は笑みを浮かべた。
「ああ。あの日から、試衛館が明るくなった気がする」さくらも、先ほどまで怒っていたことも忘れ、頬を緩ませた。
すると、「さくらさん、勝太さん、惣次郎を見ませんでした?」という声がし、台所の方からキチがやってきた。
「先ほどまでここにいましたが、カエルを逃がしにやりました」さくらは淡々と答えた。
「まあ、まだカエルなんて…!」
「ええ、だから、今逃がしに行かせているのです」
「まったく、仕事を放って何をしているのでしょう。そうしたら、あなたたち二人で水汲みしてくださいね」
それだけ言い放つと、キチはスタスタと行ってしまった。
「ここまで来たんなら、水汲みくらい自分ですればいいのに」さくらはボソッとつぶやいた。
「はは、言い得て妙だな」そう言いながらも、勝太はするすると釣瓶を引き上げ始めた。
惣次郎が水汲みをしないでカエルを逃がしに行ったことに関しては、おそらくお咎めなしだろう。
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