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三年前の家出騒ぎの時、原因は元をただせばキチの発言にある、ということで、キチは惣次郎に謝った。
その負い目もあるせいか、躾けとして叱るべき時は叱るなど、一応は厳しく接しているものの、惣次郎に対しては少しだけ寛大だった。
少なくとも、初の子であるさくらや、養子の勝太に対するやきもちのような感情はないようである。
そうは言っても、子供心には「ただ厳しくて怖い人」として映るようで、惣次郎は、周助、勝太、さくらにはよく懐き、屈託のない笑顔を見せていたが、キチに対しては心を閉ざしたままだった。
この三年、惣次郎は試衛館で下働きとして日常の雑務をこなしながら、少しずつ剣術の稽古もしていた。
勝太やさくらは、近ごろ剣術を教える側に回るようにもなっていて、勝太は若先生、さくらは姉先生とか、さくら先生とか呼ばれるようになっていた。特に惣次郎には二人で目をかけ、一緒に稽古することが多かった。
稽古をしている時さくらは、自分が惣次郎と同じ年頃だった時のことを思い出し、舌を巻いていた。
もともとの才能が違う、と言ってしまえばそれまでだが、そう言わざるを得ないほど、惣次郎の剣術の腕前は筋がよかった。その証拠に、惣次郎はさくらの半分の速さで天然理心流の目録を得ようとしていた。
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