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――これは将来大物になるぞ。負けてはいられぬ。
さくらはそう考え、より一層稽古に励むのだった。
実力で、勝太や惣次郎の上を行かねば天然理心流四代目は継げないのだから。
惣次郎が内弟子になるために親元を離れて試衛館にやってきたのを最後に、試衛館では特に大した環境等の変化もなく、さくらたちはずっと同じような日常生活を送っていた。
稽古、家事手伝い、日野への出稽古…
さくら達はそんな日常を退屈だと思ったこともないわけではないが、これも修行なのだと、この生活を変えたいと思うほどの不満まではなかった。
いつか、立派な剣客、そして武士になれると信じて―――
このようなことは、試衛館の外でも同じだった。
約二百五十年続いた泰平の世に、人々はすっかり慣れきっていた。
誰もが、生まれついた家での仕事をこなし、非日常的なことといえばせいぜい元服や結婚といったもので、日常生活も人生も、まあこんなものか、といったようなものであった。
こうした日々が永遠に続くと、誰もが思っていた。
そんな日本国民を震撼させる事件が起こった。
ある日、町へ使いに出た惣次郎は、人々の様子がおかしいことに気づいた。皆そわそわと、不安げな顔で何か話している。
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