11.黒船

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 不思議に思いながらもそのまま歩き続けていると、人だかりができていた。近づいてみると、人だかりの中心にいるのは瓦版屋だった。 「てーへんだ!化け物みてぇにでっけえ黒船が赤鬼を乗せて浦賀にやってきた!一枚三十文だ!おっと、どさくさに紛れてただで持ってくんじゃねえぞ!」  瓦版屋は残り少ない瓦版をひらひら見せながら、威勢良くそんなことを言った。  惣次郎は、余った小銭をじっと見た。何かただ事ではないことが起きているのは確かだ。瓦版を読んだり買ったりしたことはなかったが、試衛館に持って帰って見せなければと直感で思った。惣次郎は小銭を握りしめ、人混みをかき分けた。 「すいません、一つください」  惣次郎が握った手を開くと、中央の男は惣次郎から小銭を受け取り、瓦版を手渡した。惣次郎は破れないように折り畳むと、懐に入れて人混みを抜けた。  この瓦版で紙面の大半を使って取り上げられているのは、近代の日本史上で最も重大な、といっても過言ではない事件についてである。  この事件が、すべての始まりなのだ。  大げさに言えば、この事件がなければ、今の日本は全く違う国になっていたかもしれない。  黒船来航である。  浦賀に、突如四隻の艦隊が現れた。     
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