11.黒船

6/9
569人が本棚に入れています
本棚に追加
/847ページ
 指揮官はアメリカのペリー提督。二百五十年間海外への門戸を閉ざしていた日本に対し、開国を要求しに来たのである。  平成の世であればもちろんそんな知らせは瞬時に伝わったであろうが、この時代、情報の伝達手段と言えば紙に書いて人力で届けるか、口コミで広がるのを待つかの二択である。  試衛館は浦賀からは離れていたので、惣次郎が瓦版を買ったころは、すでに事件から数日経っていた。 「お、惣次郎か。お帰り」  さくらと勝太は縁側でのんびりお茶を飲んでいた。二人は軽い調子でお帰りと言ったが、惣次郎の表情が何やら暗かったので、不思議そうな顔をした。 「若先生、姉先生、これ」  さくらは惣次郎が懐から出した紙を受け取った。開いてみると、大きな黒い船の絵が目に飛び込んできた。横から瓦版を覗き込んで、勝太が内容を読み上げた。 「何なに?『巨大なる黒船、浦賀に現れし。赤鬼を乗せ、日本を侵略せしめんとし…』」勝太は音読するのをやめ、口をあんぐりと開けた。さくらは続きを自分で読もうと、瓦版に目を落とした。そのさくらの口も、みるみる開いていくので、惣次郎はじれったそうに言った。 「一体なんなのですか!?瓦版売りが、赤鬼が来たとか…」  さくらと勝太は瓦版の隅に書かれた絵を見た。赤い顔をした、天狗のような形相をした男の絵だった。     
/847ページ

最初のコメントを投稿しよう!