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「稽古の合間にちょっとした使いに出るだけだったので、稽古着のまま町に出てきてしまったんです」さくらはお恥ずかしい、とはにかんだ。
「稽古?」
「ええ、父がこの近くで道場をやっているのです。それで私も稽古を」
「…女なのに、剣術なんかやるのか?」
さくらの顔が、少しだけ引きつった。
最近こう言われることもあまりなくなっていたので忘れていたが、さくらはまだ自分が女であることを心の奥底では気にしているのだと思わないわけにはいかなかった。
「ええ。時々は門人の指導もしています」さくらは作り笑いを顔に張り付けて、さらっと言ってのけた。ある程度自分は強いのだと主張したかった。顔の皮膚がぴくぴくと不自然に動くのが自分でもわかるようだった。
「それでどうするんだ?」
「それでとは?」
「女がそんなに剣術の稽古してどうすんだって聞いてるんだよ」
少年の態度や物言いに、さくらはだんだんと苛立ちを募らせていた。
なぜ初対面の少年にそんな言い方をされなければいけないのか、と。
「弟弟子と約束したんです。一緒に武士になるって」さくらはそれでも作り笑顔を保った。
少年はじっとさくらを見ると、ふんっと鼻で笑った。
「バカバカしい。なんで女がそんな自信満々に武士になるとかほざいてんだ」
「え?」
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