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女子が武士になる、と言うことは世間一般の人に受け入れられないであろうことはわかっていたつもりだったが、実際にこのような言い方をされると、さくらの苛立ちは怒りへと変わった。
少年はさらに言葉を続けた。
「そもそもそんなナリで町歩いて、形から入ろうってのか。ますますバカだな。ほら、薬買う気がないなら帰った帰った。商売の邪魔だ」
さすがに、この一言でさくらはカチンときてしまった。
「うるさい!薬売りのくせに!」
売り言葉に買い言葉。
少年が薬売りである、ということしか情報がなかったこともあり、そこを突いて言い返すしかなかった。
それからさくらは少年には目もくれずに、その場を立ち去った。
「ふんっ、薬売りのくせに、か。大きなお世話だ。いい年して、現実見ろってんだ」足早に去っていくさくらの背中を見つめながら、少年がぽつりとつぶやいた。
さくらは試衛館に帰りながら、先ほどの出来事を思い出し、苛立っていた。
――初対面の薬売りに、何故あのようなことを言われねばならんのだ!…まあ、二度と会うこともないだろう。不幸中の幸いとはこのことだな。
深呼吸をして気持ちを落ち着けると、さくらは家路を急いだ。
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