12.薬売り

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 同年、惣次郎が元服し、総司と改名した。そして、試衛館の師範代となった。  総司の剣術の腕は「天才」と呼ぶにふさわしいことをもはや周囲の誰もが認めていた。  事実、勝太ならまだしも、さくらや源三郎は総司から一本取ることにすら苦労するようになり、逆に一本を取られてしまうこともたびたびあるくらいだった。  さくらは、自分が十六歳の頃は…などと考えるだけばかばかしくなってきて、大人の対応として事実を受け入れ、さらなる精進を、と思っていたところだった。  もちろん、さくらが弱いわけでは決してなかった。  さくらもこの頃天然理心流の免許を得ており、今までは周助の娘だからといってなんとなく門人に稽古をつけていたようなところがあったが、これで名実ともに門人に稽古をつけられる立場になっていた。  門人たちも「女なんかに教わりたくない」などと言っている場合ではなくなった。実際に、さくらは彼らよりも強かったからだ。  勝太も、さくらより一足早く免許を得、周助の同伴なしで日野に出稽古へ行くことを許されていた。  そしてある日、師範代となった総司を引き連れて、二人で日野に向かうこととなった。  総司は江戸に来て以来初めて日野に帰れることとなり、姉との再会を楽しみにしていた。     
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