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「天然理心流は、あの人が守って、伝えてきた流派なの。それを、血の繋がった娘にも伝えたい、そう思うのに何の不思議があるのです?」
「息子だったらもっとよかった、そう思ってるんでしょ!?」
さくらは大声でそう言うと、ダッと走り出した。
「さくら!」
初は道場の裏手に走っていくさくらを追いかけることができなかった。
源三郎は切なげな表情を浮かべる初と、さくらが走っていった方を交互に見、途方にくれていた。
「ちょっと俺、行ってきます」
いたたまれなくなった源三郎は、早足でさくらを追いかけた。
「ひっ…く……」
さくらは納戸の陰に隠れて泣いていた。
初がああは言っても、周助が男の子を望んでいたのは明らかであり、自分が女子であるということが、少なからず周助をがっかりさせたのは間違いない。
そんなことを考えると、さくらはどうしようもなくやりきれない気持ちになるのであった。
「さくら」
呼ばれて見上げると、源三郎が立っていた。
「なあ、泣くなよ」源三郎はしゃがみこんでさくらと目線を合わせた。
「俺は、さくらが女でよかったと思ってる。俺、男兄弟しかいないから、妹が欲しかったんだ。だから…」
「でも、父上も母上も、本当はさくらが男だったらよかったと思ってるんだ。さくらは、いらない子なんだ…」
「そんなことないって」
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