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その頃、藤左衛門と源三郎は、日野への帰り道をのんびり歩いていた。
「もういいんじゃないか」藤左衛門が言った。
「そうだね。おい、さくら、降ろすぞ」
源三郎は風呂敷の結び目をほどき、藤左衛門は風呂敷包みを両手で受け止め、地面にゆっくりと降ろした。
風呂敷がパサッと開き、中からさくらが出てきた。
「はあー、息苦しかった」
「まったく、お前も考えることが大胆というか…」
「だって…試衛館にはいたくないし。おじさん、今日から井上さくらになるから、よろしくお願いします」さくらはぺこりと頭を下げた。
「そうは言ってもなあ、近藤先生心配するぞ?」
「心配なんかしません。きっと『こりゃ都合がいいや』なんて言って男の養子を取るんです」
さくらはぷいっと顔を背け、ずんずんと歩きだした。
「いっそ源兄ぃが試衛館の跡取りになればいいんだよ。そうすれば丸くおさまるし。交換交換!」
藤左衛門と源三郎は、さくらに気づかれないように目配せした。
それから二日後。
日野の井上家で、さくらは厄介になっていた。
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