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3.剣術少女・さくら(前編)
次の日、周助が迎えにやってきた。
井上家の一室で、周助とさくらは向かいあって座っていた。しゅんと身を縮こませるさくらに、周助は一喝する。
「バカ野郎、人様に迷惑かけやがって」
「だって…さくらは女子です。試衛館にとっていらない子なんでしょ」
周助はハア、と溜め息をついた。
「誰がそんなこと言った」
「母上が…」
「何を聞き間違えたんだ。お初がそんなこと言うわけないだろう」
さくらは信吉との一件や、初に言われたことを周助に話した。
周助はしばらく考え込むように黙り、やがて口を開いた。
「いいか、さくら。正直に言えば、確かに男が生まれた方がよかった」
さくらは胃袋に鉛が落ちてきたような感覚を覚えた。そして、無意識のうちに涙をこぼしていた。
「おい、最後まで聞け。だがな、それはお前が生まれるまでの話だ。お前が生まれて、無邪気に笑ってる顔見たらな、もう男だろうが女だろうが関係ねえって思った。血の繋がった実の子に、俺の天然理心流を受け継がせたい、その気持ちは変わらないけどな。だから俺はお前に剣術を教えたいんだ。稽古を積んで、誰よりも強くなったら、お前に宗家を譲ってもいい」
「本当ですか?」
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