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「本当だ。第一、本当にいらない子だったら、どうして今日までうちの子として育ててきたんだ。とっくに里子にでも出して縁を切ってた。違うか?」
さくらはハッとして周助を見た。
七歳になるまで自分を試衛館において育ててくれた、その事実が十分証明していた。
自分は、いらない子供ではない。
「わかったみてえだな」
さくらが堪らず周助に近寄ると、周助は娘をぎゅっと抱きしめた。
せっかく日野まで来たから、ということで、周助はそれから数日の出稽古を始めた。
周助はこのあたりの佐藤彦五郎という名主の家にある道場で出稽古をしている。井上家とは少し離れていたので、周助は佐藤家で寝泊りしていた。
一方、さくらは引き続き井上家で世話になっていた。
「源兄ぃ、竹刀貸して」
庭で素振りをしていた源三郎は、目を丸くして手を止めた。
「どうしたんだよ、急に」
「源兄ぃ言ったでしょ、自分で敵とれって。それに、さくらは父上の理心流を継ぐの。だから練習しなきゃ。でしょ?」
さくらはにっこりと笑って手を差し出した。昨日までふさぎ込んでいたのが嘘のようなさくらの笑顔を見て、源三郎も微笑んだ。源三郎が竹刀を手渡すと、さくらは嬉しそうに握り締めた。
「どうやって構えるの?」
「そこからかよ。いいか?右手が前、左手が後ろで…」
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