579人が本棚に入れています
本棚に追加
日野での滞在も最終日を迎え、周助が井上家にさくらを迎えにやってきた。
「父上、見てください」
さくらは源三郎の竹刀を構えると、大きく振りかぶった。空気を切るビュッという音が鳴った。その様を見て、周助は驚きと嬉しさに目を見開いた。
「へぇ、筋がいいじゃないか」
「父上、さくらに剣術を教えてください。信吉のやつを、ぎゃふんと言わせてやりたいんです!」
「ちっと動機が不純だな。まあいいか。やる気になってくれたんなら、それに越したことはねえ。厳しいぞ」
「はいっ」
さくらは源三郎ににこりと笑いかけた。
「よかったな」源三郎も微笑み返した。
試衛館に帰ると、初が真っ先に駆け寄ってきた。
「さくら!」
初はぎゅっとさくらを抱きしめると、愛おしそうに頭を撫でた。
「心配しましたよ」
「やっぱり源三郎が一枚噛んでたぞ」周助は可笑しそうな笑みを浮かべると、日野での出来事を話して聞かせた。
「さくら、明日からバシバシ稽古つけてやるからな」
「ありがとうございます!」
急に剣術を習うと言い出した娘を見て、初は状況が掴めず周助を見た。そこには、子どものように嬉しそうに微笑む夫の姿があった。それを見て、初もつられて笑みを浮かべた。
「あなたは誰よりも強くなりますよ」初は優しくそう言った。
最初のコメントを投稿しよう!