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「父上見て下さい。昨日いっぱい練習したんです」
さくらは竹刀を手にすると、勢いよく上から振り下ろした。
「うんうん、なかなか筋がいいな」周助は満足そうにさくらを見た。
「その調子でがんばれよ」
「へ?」
さくらが二の句をつげないまま棒立ちしていると、周助は「辰の刻(現代の午前八時)には門人が来るからそれまでは道場使っていいぞ」と言って何事もなかったかのように道場を出ていってしまった。
三日経っても五日経っても、周助は一向にさくらに新しいことを教えなかった。
そして七日目、さくらは周助に素振りを見せたあと、いつものようにスタスタと道場をあとにする父親の背中に向かって言った。
「父上、さくらはいつまで素振りをすればよいのですか!?」
周助はさくらの方を振り向くと、驚いたような顔をした。
「いつまでって、お前、まだ七日しかやってねえじゃねえか」
「七日もやりました。早く技を習って信吉に勝ちたいんです」
「バカ野郎、まだ技がどうこう言う段階じゃねえんだよ。天然理心流四代目を継ごうってんだ、中途半端な素振りじゃ次へは進めねえぞ」
周助はそれだけ言うとさっさと去っていった。さくらは、その後ろ姿を唖然として見つめるしかなかった。
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