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その矢先の出来事だった。初が懐妊したのだ。周助も、門人たちも、小躍りして喜んだ。
男が産まれたら――
誰もが五分の確率に期待した。男なら、これで後継ぎ問題は解決する。
――まあ、産まれた子にも、初にも罪はねぇ。
周助は一人、力なく微笑んだ。妻、そしてまだ見ぬ娘に対し一瞬でもがっかりしたことに対する罪悪感がチクリと周助の胸を刺した。自分で自分の頬をバシッと叩く。すると、産婆助手の女が振り返った。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもねぇ…」
女は首を傾げたが、大して気にしない風で残りの数歩を歩いた。
「本当にかわいらしいんですよ」女はにっこりと笑うと初が出産した部屋の前に座った。
「奥様、旦那様をお連れしました」
「どうぞ」初の声がし、女は襖を開けた。
周助は中を見た。やや疲れたような、それでいて幸せそうな微笑みを浮かべた初が部屋の真ん中で横になっていた。
その横では、真新しいおくるみに包まれた赤ん坊が、そこから出した小さな手をバタつかせながらどこを見るともなく真っ黒な瞳をくるくると動かしている。
「お初、やったな」周助は笑みを浮かべ、妻の枕元に座った。
「かわいらしいでしょう」初も笑みを返した。
「ああ。最高だよ」
初は少し寂しげに微笑んだ。
「どうした?」
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