4.剣術少女・さくら(後編)

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 周助が最も恐れていたことだった。こうならないために、成長するまで剣術は教えないつもりでいた。しかし、動機がなんであれ、さくらが自分から剣術をやりたいと言ってきたのがうれしくて、周助はつい七歳の少女にとってつらすぎる稽古を強いてしまったと後悔した。 「…そうか。ならいい」周助は静かに言った。 「ごめんなさい。怒ってないんですか?」 「お前がやりたくないって言ってるのに、無理矢理やらせたって、意味ないだろ」  さくらは周助が怒っているのか悲しんでいるのかわからなかった。とにかく、父を傷つけたのだ、と子供心にわかった。さくらはいたたまれなくなって立ち上がった。 「お前がそんな辛気くせぇ顔すんな。いいんだよ、ちゃんと言ってくれて俺はホッとしてんだ」周助はニッと笑った。  その言葉を文字通りに受け取り、さくらは「よかった」と胸中で呟きつつ道場を出た。  残された周助は、遠くから聞こえてくる「母上ー!神社に遊びに行ってきまーす!」という声をぼんやりと聞いていた。  ――まあ、腕のいい養子をとりゃいいだけの話だ。  周助はふぅ、とため息をついて立ち上がると、重たい木刀をスッと構え、大きく一振りした。
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