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「男の子ってさ、毎日チャンバラばっかりしてて飽きないのかな」さくらの隣に座っていた少女・ミチが言った。
「そうだよね!お手玉の方が楽しいし」その隣のカヨも同調した。
さくらはぼんやりとその話を聞きながら、お手玉にふけっていた。
――男だったら……ああやって今のうち真似事でも剣術をやって、道場を継いでいたのかな……
幼いながらに、さくらは自分が女であることに少しの罪悪感を感じていたのだった。
父の気持ちに答えたい、という思いがないわけではない。だがそもそもの話、さくらにとっては道場は「怖い場所」であったのだ。
一度だけ、父が稽古をつける姿を一目見ようとさくらは道場を覗いてみたことがある。が、道場に近づくとこの世のものとは思えない奇声が聞こえてきたことに怖じ気づき、あえなく引き返してきた。それは剣術稽古には欠かせない気合いの掛け声ではあるのだが、幼いさくらにとって、道場から遠ざかるには十分な恐怖体験であった。
故に、後にも先にもさくらが道場に足を踏み入れたのは、道場ができて門人や家族に御披露目された時のみである。
――無理なものは無理なんだ。だってさくらは女子なんだから。
「さくらちゃん、どしたの?」ぼんやりしているとカヨに肩を叩かれた。
「なんでもないよ……あっ!」
女の子が全員同じ方を見た。
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