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1.産声
天保五(一八三四)年 三月 江戸
縁側に腰掛け、ぼんやりと空を見上げる男がいた。
今日は快晴、春爛漫の陽気である。
「だ、旦那様!」
向こうからドタバタという足音と共に、一人の女がやってきた。
男はガバッと立ち上がった。
「産まれたか?」
産婆の助手として来ていたその女性はこくこくと頷いた。
「男か?女か?」
「はい。かわいらしい女子の赤ちゃんでございます」
男の顔が一瞬曇った。が、女に悟られまいとすぐに笑顔になった。
「そうかぁ。まあ元気に産まれてくれたならそれに越したことはねぇ。どれ、娘に会いに行くか」
「はい。こちらですよ」
男は女について、娘の待つ部屋へと向かった。
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