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5.別れ。決意。
弘化元(一八四五)年 初夏
源三郎が元服した。元服とはこの時代の成人式のようなもので、髪型や名前を変えて大人になったことを祝う。しかし、農民や下級武士の家柄ではよくあることだったが、源三郎は名前を変えなかった。
近藤家の三人は近所の門人に留守番を任せて、日野の井上家で開かれた祝いの宴に駆けつけていた。
ピシッとした羽織り袴を着て、頭を月代に剃った源三郎の姿に、さくらは違和感を覚えた。
「なんか、源兄ぃ、別人みたい…」
そんなさくらの戸惑いをよそに、酒が注がれ周助が音頭を取る。
「弥栄!おめでとう、源三郎!」
カチャンカチャンと陶器がぶつかる音がする。さくらは杯を傾けると、初めて飲む酒の味にむせ込んだ。
「さくら、無理をしてはいけませんよ」初が咳き込むさくらの背中をさすった。さくらは落ち着くと、杯を置いた。
「はは、さくらはガキだな。源三郎を見習え」すでに顔を赤らめている周助がゲラゲラと笑った。
「源三郎、お前も大人になったんだ!飲め飲め!」
周助に酌をされ、源三郎ははにかむように笑った。
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