62.天神・桜木(前編)

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   ――え?  さくらは危うく皿を取り落としそうになった。もう一人の副長といえば、彼しかいない。  ――聞いてない。誰からも、一言も。  さくらは、必死に平静を装って、しかし怖いもの見たさのような気持ちで志乃に質問した。声が、少しだけ震えている気がした。 「そうやったん。明里姐さん何も言わないから……お、お志乃ちゃんはどうしてそんなこと知ってるん?」 「うちかて直接聞いたわけやあらへん。お馴染みさんの内情をぺらぺら喋るようなお人やあらへんやろ、明里姐さんは。うちな、たまに姐さんについて鼓叩きよるやろ。この前、新選組の原田はんと永倉はんのお相手した時に言うてたんや。『ああ、やっぱりあんたか。なんとかさんの(イロ)は』って。なんやったかな。さ、さ、」 「サンナンさん、いうてなかった?」 「そうそう、そんな名前やった。なんやお初ちゃん知ってるんやないの」 「へえ、まあ、ちょっとだけ。……えっと、皿、洗い終わったから、今日はこれで」
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