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7月23日は『米騒動の日』だという。
毎朝視ているワイドショーの最後に流れるミニ蘊蓄コーナーを、今日は少しだけ期待していたのだが、がっかりだ。
『米騒動』に罪はないが、何かこう……パアッと華やかな記念日であって欲しかった。
ボウズが入れたアイスコーヒーのグラスを掴んで、一気に流し込む。
効き始めたクーラーと相まって、漸く涼しさを感じた。
「……やれやれ」
いつもの事務所のいつものソファーにゴロリと横になる。これも、いつもの定番だ。
「金岡さん、今日何かあるんスかぁ?」
同じようにソファーに張り付いている安東が、虚ろな眼差しを向けてくる。
「あぁ?」
「だって、白いスーツなんて珍しいじゃないスか」
まぁな。確かに、俺にしちゃあ地味だわな。
コイツは厚ぼったい一重の眠そうな顔のくせに、意外に目ざとくあちこち見てやがる。
「ラッキーカラーっすかぁ?」
肘掛けに乗せた足先の向こうから、波元の間延びした声がした。アイツとは隣席のよ(・)し(・)み(・)で、ちょこちょこ雑談をする。俺がコーディネートにラッキーカラーを取り入れることも、熟知しているという訳だ。
「それもあるけどな……それだけじゃねぇんだ」
「何かよく分かんないっすねぇ?」
「俺にも分かんねぇんだよなあ……」
緩い会話を交わしながら、事務所の天井をぼんやりと眺める。
白いスーツを選んだのは、他でもないアンナだった。
-*-*-*-
「今日は、この服を着てね」
クリーニングから戻ってきたばかりのオフホワイトのスーツを片手に、アンナが微笑んだ。通気性のいい滑らかな素材のダブルのスーツは、一張羅を気取ってシワひとつない。
「何だよ、ラッキーカラーか?」
既に淡いピンクの半袖シャツに袖を通していた俺は、ハンガーごとスーツを受け取ると姿見で合わせてみた。どうもパンチが足りないが、たまにはスィートな雰囲気も悪くねぇか。
一方のアンナといえば、真っ赤なレースのセクシーなキャミソール姿だ。今日は仕事が休みだと言っていたから、俺を送り出した後、もう一眠りするつもりに違いない。
「まぁ、そんなところね」
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