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幼馴染みの彼【1】
いつもと変わらない朝。
結城夏鈴は、少し寝癖のある竹村碧斗の髪の毛を見つめながら、半歩後ろを歩く。子どもの頃からこの位置はずっと変わらない。
夏鈴と碧斗は生まれた頃からマンションの隣の部屋に住んでいて、腐れ縁の幼馴染みだ。
そんなただの腐れ縁だと思っていたのに、夏鈴は中学二年生の春ぐらいから、急に大人っぽくなった碧斗に恋心を抱くようになった。
それでも「一番碧斗に近い女の子は自分だ」と自負している夏鈴は、焦らすに告白のタイミングを伺っている。
変にタイミングを間違えて、気まずくなるのが怖かったのだ。
「ねぇ、夏鈴、英語の宿題やったー?俺、今日当たるんだけど見せてくれない?」
前を歩いていた碧斗が不意に夏鈴の方を向く。いつの間にか自分よりもずっと背が高くなった碧斗に、ちょっとだけドキっとする。
「一応やったけど。見せてってまたやってないの?この前も見せたじゃん」
「だって昨日、練習終わった後にさらに自主練して、疲れて寝ちゃったんだよ。大会近いんだから仕方ないじゃん」
「えー、もう、今回だけだからね?」
「やった!サンキュー!」
「でも、その代わり、県大会は絶対に勝って、関東まで行くんだよ?」
「当たり前だろ。全国まで行くよ、俺達は!」
「おー、言うねぇー」
夏鈴はクスクスと笑いながら、碧斗の顔を眺める。すると不意に目が合って、心臓が更にどくんと飛び跳ねた。昔に比べてすっかり男らしくなったその笑顔は、本人に伝えると調子に乗るから絶対に言わないけど、少しかっこいい。
碧斗のことをかっこいいと思う女の子はもちろん夏鈴だけではない。
サッカー部の絶対的エース、勉強は微妙だけど、顔はそこそこイケメン。明るくてノリもいい碧斗は、クラスの人気者だ。碧斗と幼馴染みでマンションの隣の部屋同士だと言うと、女の子はみんな夏鈴を羨ましがった。碧斗目的で友達になろうとしてくる子もまでいる。
でもみんなに羨ましがられることばかりじゃない。幼馴染みだからこそ、大変なことも、壊せない壁も沢山ある。
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