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「碧斗君、夏鈴ちゃんおはよう。今日も仲いいね」
そう言って綺麗な笑顔で二人に挨拶してきたのは、サッカー部で一つ年上のマネージャー、細田美里だった。
美里は美人で優しくて、男女共に憧れる子が多い、少女漫画に出てきそうな完璧ヒロインタイプだ。口には出さないけど、たぶん碧斗も美里に憧れている。
「美里先輩おはようございます。仲良くなんてないです!朝からこいつが勝手に着いてきて困ってました!」
「お前何言ってるんだよ!着いてきたのはそっちだろ!」
「いや、そっちじゃん。あたしの宿題が目的だったんでしょ?もう見せてあげないよ?」
「やだ、それは困る!すみません、俺が夏鈴様に朝からお供させて頂いてました」
「うん、それでよろしい」
一連のやり取りを見て、美里はクスクス笑いながら、
「二人とも面白い。本当に仲良しで微笑ましい。二人見たら朝から元気になっちゃった。ありがとう」
と、さらにキラキラの笑顔で言って、また放課後ねと爽やかに去っていった。
「何なの、あの朝からキラキラした生物は」
「夏鈴と同じ女とは思えないよな」
「うるさい」
「お前も少し、先輩を見習って女の子らしくすれば?」
「大きなお世話!」
夏鈴は持っていた鞄で一発碧斗を殴ると、機嫌悪そうに早足で教室へと歩き出す。
夏鈴だって本当は女の子らしくしたいし、碧斗が女の子らしい子が好きなのも知っている。でも何だか気恥ずかしくて、今更女の子らしくなんてできない。だからそんなことを言ってくる碧斗に腹を立てたのだ。
「痛っ。お前本当にガサツ」
「もう碧斗なんて知らない」
「ちょっと待てよ。機嫌悪くした?ごめん、でも宿題だけは・・・」
「他の人に見せてもらえば?」
「えー、夏鈴、英語得意じゃん。夏鈴のがいいんだよー」
(全くこいつは、そんなに宿題写すことが大事か。あたしがどんな気持ちでいるか知りもしないで)
隣でぐちゃぐちゃ言ってくる碧斗を無視して、夏鈴は席に着いた。夏鈴はしばらく無視を続けたが、碧斗があまりにもしつこかったので、最終的に宿題だけは見せた。
押しに弱い夏鈴の性格を、碧斗はよく知ってる。
二人はいつもだいたいこんな感じで、近いようで遠いこの距離が、夏鈴はすごくもどかしかった。そして何とかしたいけど、何もできない自分に嫌気がさしていた。
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