騒音の都

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騒音の都

カオサンの熱気は凄まじく、僕の興奮の火は更に強く燃え上がった。カオサンという場そのものが興奮しているかの様だった。 ホテルを出て、小さな広場が中央に有る大きな通りからカオサンの中へ人と屋台の海をかき分けて入る。 そしてやっとカオサンロードへたどり着くと、先程よりも凄まじい数の人間と屋台による海が待ち受けている。どこから流れてくるのか分からないが重低音の効いたクラブミュージックが僕を殴りつけるように包み込む。日本の夜市では嗅ぐことの無い独特な香辛料の匂いが、人々の汗と埃のそれと混ざり合い、辺りに立ち込める。安っぽい土産物や衣服を売る店、ジュースを売る店、パチモノを扱う店、タトゥーショップ、エクステサロン、立ちんぼ、はたまた一体何に使うのか分からないようなものを扱う店まで、一体何日いれば全ての店を見て回れるのだろうかと気が狂いそうになる。 屋台があればレストランバーもある。通りから見えるのだがレストランバーは欧米人で占拠されていた。屋台の利用者は殆どは地元のタイ人だった。 その屋台が僕にとっては魅力的だった。頭がそのまま付いた鶏が丸焼きになり何羽もぶら下がっているのを目にしただけで胸が踊った。その肉を切るなり削るなりしてご飯の上に乗せ、客に提供する。 または何の肉か分からない肉を長い串に刺し、焼いて売る。旅行者には妥当な値段が分からないからなのだろうか、どこの店もその手の串焼きを扱う店は長い時間他国の人間と押し問答をしている。値段の交渉なのだろう。 客引きの勢いもまた凄まじかった。レストランバーに少し目をやるだけでメニュー表を握らせるし、タトゥーショップの前を通れば「ヘイ!ヤクザ!」と言われる始末だ。全くどこの馬鹿がイレズミ=ジャパニーズマフィアなどと教えたのか。しかしそんな日本では絶対にすることのないやり取りや異国の風景が異邦人である僕を違う世界へ誘い、酒で酔わせるかの様に酔わせ、惑わし、そして恍惚とさせた。
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