騒音の都

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ついでに言うと僕は酒飲みである。地元ではバーテンダーとして働いている。バーという空間が好きで酒を飲むようになったのだが今では立派な酒飲みだ。休日ぐらい休肝日にすればいいというものでは無い。休日こそ飲まなければ休んだ気がしない。もっと言えば「負けた気がする」のだ。 屋台でビールを買い、バーを求めて酒を飲みながらカオサンロードを練り歩く。 そうしていると一軒の屋台が目に入った。仏頂面の男が椅子に座って通りを眺めている。客は見当たらないのだが、近くまで来てなるほど納得した。 そこで取り扱っているのは虫だった。虫食だ。揚げてあるらしいのだが丸揚げなので完璧に原型を保っている。種類も豊富でタガメ、コウロギ、ムカデ、クモ、サソリ、イモムシにカエルもあった。カエルの丸揚げは白い腹を見せながら恨めしそうに下目使いでこちらを見ているし、タガメに至っては油で黒光りしているせいでまるでゴキブリの様だ。 これはこれは異国風情の有るものに出会ったもんだ。よく見ると商品の下に値段の代わりにこう書かれている。 写真1枚10バーツ 写真を撮るのに金がいるのかと驚いた。うっかり撮ろうものなら訳も分からないまま金を請求されるのか。しかし注意書きが目の前に有るだけまだ親切だ。楽な商売だなと僕は思った。 しかし例えば僕達日本人が、この様に屋台で納豆や鮪の目玉等を売っている時に外国人達が商品を買いもせず、はしゃぎ、冷やかし、物珍しいからと記念写真を取るだけで済ませたとしたらどうだろう。僕なら間違いなく腹が立つ。そのような行為はその国の食文化に対して非常に失礼なものだ。馬鹿にしているのと同じである。目の前のこの男の仏頂面も外国人達の冷やかしを毎日浴びることによって自然と作られていったものなのだろう。 そう考えると写真1枚につき10バーツと言うのも納得がいった。「買わないのならどっか行ってくれ。冷やかしはごめんだよ。」という言葉の代わりにこうしたシステムが出来上がったのだろう。
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