騒音の都

6/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
それからまた通りを何往復しただろうか、僕は横道の存在に気が付いた。とても狭そうだったが、それでも今まで気が付かなかったとは余程夢中になって歩き回っていたのだろう。僕は入ってみようかなという気になった。大体僕の性格は行くなと言われた所に行く。やるなと言われたことをやる性格なものだから、危ないかどうかなど二の次で体が勝手に動くのだ。 路地はやはり狭かったが露店がいくつか並んでおり、音楽を奏でている者もいた。鍋の蓋のような不思議な形の打楽器を座って奏でているのだが、それがとても美しかった。綺麗だなと視線を落したまま歩いていると脚のない物乞いがじっと僕を見つめていた。僕は背骨に氷柱を打ち込まれたように驚いて一瞬立ち止まってしまったが、また歩き出した。これが異国なんだと思えばショックは幾分和らいだが、止まった足はやっとの思いで動かせた程度だった。 立ちんぼ達の視線を振り切り僕は路地を出た。すると思いもよらない光景が僕を待っていた。 この路地は大きな通りに繋がっていた。飲み屋や両替所、露天商などで埋め尽くされており、音勢の人々が河のように流れていた。さっきまでの喧騒や熱気はここに比べれば結婚式と葬式だ。 一体ここは何なんだと近くにいた男に訊ねた。 「カオサンロードに決まってるじゃないか。」 そうか、ここが本当のカオサンロードなのか。ということは僕が最初にカオサンロードだと思っていた通りは全く別の通りだったのだ。僕はついおかしくなって一人で声を出して笑ってしまった。 まだまだ退屈しないで済みそうだ。 男は奇妙そうに僕を見ていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加