手紙

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今、僕は香港へ向かう飛行機の中にいます。 この手紙はその飛行機の中で、空港の売店で買ったばかりのボールペンを使って書いています。これからどれほどになるか分からない長い旅に出るというのに筆記用具を買うのを忘れてしまうとは、いい加減な性格は相変わらずで「果たして大丈夫なのだろうか、俺は?」と半分面白がりながら自虐的な自問自答をしています。 約一年前、僕はバンコクの地を訪れました。初めての異国での旅でした。 ほんの五日という短い時間でしたが、目の当たりにしたあの熱気、騒音、そして渦巻く命、その全てが僕に生々しい衝撃を与えてくれました。 しかし刺激的なあの日々でさえ僕を満足させることが出来ずに寧ろ再び旅に駆り立たせることとなりました。 恐らく僕は自分というものを一度粉々に叩き壊したいのです。ゼロにしてしまいたいのです。 そして今、念願の地である香港へと向かっています。 あなたへの手紙を書きながら。さらに濃く、深く、心の中に堆積した、僕の好奇心が疼くのを感じながら、、、。 飛行機の窓から見る香港の地は、まるで無数のオレンジの珠をバケツで撒き散らしたように、光が広く、荒く散りばめられ、そして妖しく輝いています。かつて東洋の魔都と言われたこの地が今でも口を開いて、近づくもの全てを誘惑している様に見えてしかたがありません。そしてその中に僕を乗せた飛行機が夜光虫のように吸い込まれ、飲み込まれていく。 抗うことなく、、、流されるままに、、、。 ですがそれが僕の旅をそのまま表しているのなら、僕は今から全てを流されるままに任せることにしましょう。 きっとそれが、一番良いことのように思うのです。何故かは分かりませんがはっきりとそう思うのです。 さて、そろそろ機内も消灯となります。書き続けることは無理のようなのでまた近いうちに手紙を書いて送ります。世界のどこかの風景や食べ物、人々との出会い、そして僕のことを世界のどこからか。あなたへと、そして僕自身へ向けて。
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