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(仕方がない。ちょうどここは左カーブになっている。タクシーが減速したところで捕まえよう。)
僕はタクシーを捕まえる事にした。しかし一向にタクシーが現れない。現れないのでは捕まえようもない。しかし五分もそうしていた頃に大通り側の車線からタクシーがゆっくりと近づいてきた。
チャンスだ。これを逃したらしばらくはタクシーは現れないぞ。どんな運転手でも構うものか。
車の信号が青だったこともあり、僕は飛び込むようにそのタクシーに乗り込んだ。
「すいません乗せてください!」
「OK。早くドア閉めて。」
二十代前半くらいの若い男の運転手だった。タクシーは元々走っていた方向へ前進した。
「どこまで?」
「ああ、とりあえずカオサンロードまで。」
カオサンロードとはバックパッカーの間で恐らく一番有名であろうアジアの安宿街である。聞いた話では70年代ぐらいまでは米問屋が多く集まる通りだったらしいのだが (「カオ」とはタイ語で米の意味だと地元のタイ料理屋で学んだ。) 徐々に安宿街として定着していき、旅人の聖地となっていった。もっとも聖地として名前が売れすぎて今ではすっかり観光地化してしまったとも実際に訪れた人から聞かされてはいたが。
旅人の聖地。なんと素敵な響きだろうか。僕はカオサンロードに強い憧れを抱いていた。 この駅から少し離れてはいるが、初日からカオサンロードに行きそこを拠点にしてもいいではないか。いやその方がいい。どうせ宿など決めていないのだから。
「カオサンまでどれぐらいの距離かな?」
「多分5~6キロじゃないかな。」
「いくら?」
「300バーツ」
日本円で約1000円。日本なら充分安いのだがバンコクにおいて妥当な値段なのか僕には分からなかった。
「それでお願い。」
「OK。」
タクシーは大きな交差点で左へと向きを変え、僕を乗せてカオサンロードを目指した。
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