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タクシーは夜のバンコク市内のネオンの海を走っていく。夜のバンコクの風景はたまにタイ独特の仏教寺院が目に入る以外は日本の都会とあまり変わりはない。
「バンコクってすごく都会だね。」
「まあね。バンコクは初めてかい?」
「うん。前から来たかったんだよ。そう言えば何かおすすめのタイ料理とかないかな?腹減ってるんだ。」
僕は今朝から何も食べていなかった。前日は仕事が遅くまでかかったので飛行機の中でも何も食べず寝てばかりだった。トランジットのヴェトナムでビールを飲んだだけだった。
「何だろうな。俺はパッタイが好きだな。」
「確か麺料理だっけ?美味しそうだな。」
タクシーに乗っている間は良く話が弾んだし、この運転手も食べ物の話以外に目に入る寺院の説明や観光地の話だったりと、お世辞にも上手とは言えない英語で一生懸命会話してくれた。よく笑ういい男だった。しばらくすると宿は決まっているかと聞かれたので、決まってはいないが候補にしているいくつかの宿の一つがカオサンに有ると説明してiPhoneに保存した地図を見せたが、正確な場所は分からないようだ。
「着いたぞ、ここがカオサンだ。」
あまりに唐突に僕の目の前に騒々しい通りが現れた。
「これがカオサンロードか。」
決して広くはない通りだが、屋台が通りの入口から噴き出しているように溢れかえっておりそれが自分の目で確認できる限り延々と続いている。そしてその屋台の何十倍という数の人間が溢れている。様々なネオンの光でここだけが夜の世界から隔絶されている様だった。いや、夜に似つかわしくないこのネオンや騒々しさが有るからこその夜の世界ともいえるのではないか。
僕は自分の内部で、静かに何かが燃え広がるのを感じていた。
運転手はカオサン周辺を何周も走り、道行く同業者にホテルの場所を尋ねようやく目的のホテルにたどり着いた。かなり新しいホテルのようだ。フロントに入りチェックインを済ませる。1泊400バーツ。日本円で大体1200円。14~5人が泊まれる大部屋、いわゆるドミトリーだ。もっと安い宿も有るらしかったのだが、初めてのバンコクの夜だ。いくら金を充分持ってきていないにせよこれぐらいの贅沢はいいだろう。実際、海外に行くのにたったこれだけの金額で大丈夫かと家族から心配されもした。
荷物を下ろし、興奮しながら僕はカオサンへと向った。
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