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一足先に建物入り口で、テナント案内板を物色していた少女が振り返り口を尖らせると、優樹はその頭越しに案内板を指さした。
「俺はこの、ハンバーガーショップがいいな。杏子の好きなアボガドのバーガーもあるみたいだし。決まりっ!」
頭上にある腕を払いのけるように、田村杏子はポニーテールにした髪を振り回す。
「もうっ、いつも優樹は独断専行なんだからっ! 人の意見も尊重してよね! 遼くんも、そう思うでしょ?」
二人から同意を求められ遼は、困り顔で溜息を吐いた。
優樹と、その従妹で一学年下の杏子は、仲の良さから遠慮無い物言いをする。今日も朝から何度、仲裁役をしたことだろう。
「最初に優樹が中華街で食べ歩きしたいと言ったけど、杏子ちゃんの希望優先で元町に行ったよね? だからここは、優樹の意見をきいてあげたら? 公園には屋根付きの休憩スペースと、木陰もたくさんあるよ?」
「まぁ……遼くんが、そういうなら譲ってやっても良いけど」
「うわっ、なんだよその、上から目線! 可愛くねぇ!」
「可愛くなくて結構です! だいたい優樹は、食べる事しか頭にないって言うか……」
「よく言うよ! おまえの買い物が長くてだなぁ……!」
二人のやりとりを無視して遼は、ショップのオーダー・カウンターに向かった。
私立叢雲学園高等部・館山校三年の夏休み。
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