第1章 あこがれのお姉さん

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 その年の3月はじめ、少年はいつものようにイルカとアシカのショーを見に来ていた。  そしてそれが終わると、少年はお姉さんを一瞥、のはずだった。  しかしその日は違った。なんと、少年がお姉さんに近づいて来たのだ。  きょとんとするお姉さんの前で、少年はたどたどしく声をかけた。 「お姉さん……」 「ん? 何かしら?」 「ぼく、あの……」 「どうしたの?」  言葉の先をお姉さんは瞬時に理解したが、あえて彼に言わせることにした。  少年は息を吸い込み、上目がちにお姉さんを見て、 「お姉さんのこと、好きです!」  思い切ったストレートな告白。子供らしくて素敵だなと思ったお姉さんは、少し間を置いて、子供を諭すかのごとく答えた。 「ありがとう。でもごめんね。私、もうすぐ結婚するの」 「そうなんですか……」  ものすごく残念そうな表情を見せた少年を見てお姉さんはフォローを入れた。 「好きって言ってくれたのはうれしいよ。だからね、お姉さんの幸せを祈ってて欲しいの」 「……、お姉さんの幸せ?」 「うん。私も、キミの幸せを祈っているから」  少年は遠慮がちに「ありがとう」と答え、その場を後にしたのだった。
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