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エピローグ
お姉さんは大学に行く青年を見送って、あの喫茶店に戻ってくると、さっきのウェイターが出迎えた。
「よかったー、うまくいったー!」
「おつかれさま。ところで約束のものは?」
「わかってる。はい」
差し出されたのはアニメを原作にした、大人気のミュージカルのプラチナチケット2枚。
ウェイターは笑顔でそのチケットを受け取って言った。
「ありがとう。だけど、ここまでしなくても、正直に話せば良かったんじゃないか?」
「だって、結婚するって言って彼の前から去ったのに、嘘だったなんて言いづらいじゃない。子供扱いしてたってわかっちゃったら嫌だし」
3年前に水族館を辞めたのは、大学院に行って水生生物をさらに研究するためだった。現在は水産大学で事務をしていて、絶賛婚活中である。
「まあ、な。たしかにあの子にそれを言ったら怒るかも知れないけど」
「うん、あと、がっついたりしたら引いちゃうかなと思って。それもあって協力してもらったの。ありがとう」
「まあ、学生時代からの腐れ縁だからな」
このウェイターは、さっき駅のホームでお姉さんの旦那を演じた仕掛け人であった。
「彼、カッコよかったなぁ……。幸せにしてみせるなんて強がり言っちゃって。久しぶりにときめいちゃった」
「自分で仕掛けておいて、早速のろけ話か。幸せな人だねぇ」
「だって……、うれしかったんだもん。それじゃあ私、そろそろ行くね」
お姉さんは顔を赤らめながら、お話もそこそこに店を出ようとした時、ウェイターが諭すように言った。
「まあ、協力しておいて言うのもなんだけど、嘘をつくのもほどほどにな。そこまでしてものにした彼氏だ。大切にしろよ」
お姉さんは黙ってうなづき、店をあとにした。
彼と絶対幸せになってみせると心に決めて。
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