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倉橋さんはふと立ち上がると、カウンターに置いてあったカメラを手に取り、私に向かって掲げた。
「落ち込んでたって仕方ないから、ちょっと気晴らしでもどうかな?」
「はあ?」
「これ、お客様から預かったカメラなんだけど、見てどう思う?」
そう言って、カメラをそっと私の手のひらに乗せる。
かなり古いおもちゃっぽいカメラだ。この形はどこかで見たことがある。
あれは、確かーー
「これ、前に安藤さんが持ち込んだカメラに似ています。確か、ロシア製のLOMO LC-Aとかいう名前で、安藤さんはちゃんと写らないのが売りだとか、わけのわからないこと言ってましたよね。でも結局ニセモノでしたけど。あのカメラと見た目はそっくりだけど、どこか違うような……」
倉橋さんは、笑みを浮かべながら黙っている。
私はカメラをじっと見つめた。よく手入れされていてとても状態はいい。
どこか輝きを放っているようにも見えた。
「……なんか、これはホンモノのような気がします。LOMOって書いてないけど、まさしくこれが原点みたいな、そんな感じがするんです」
「ご名答。さすが加奈さんだ」
倉橋さんは満足げに大きく頷いた。
「実はこのカメラは、ロシア製のLOMOでもないんだ。1980年ごろに日本で作られたコシナCX-2というカメラ。あまり売れなかったけど、ロシアでこれのコピー品が作られた。それがLOMO LC-Aなんだ。つまりこれこそがホンモノのルーツだってこと」
「はあ、そうなんですか」
「カメラの知識なんかないのに、加奈さんは一瞬でそれを見抜いた。やっぱり加奈さんには僕たちが持っていない不思議な力を持っている」
「はあ」
「和田塚写真館の入社試験は合格だよ。明日からでも来てもらえるかな?」
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