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ガラスケースのカウンターの上に置かれた、いかにも古そうなレンズを指差して口を尖らせる。
その人はハゲタコ親父に向き直ると、丁寧な口調で言葉を返した。
「いや安藤さん。メーカーロゴを削ってわからないようにしてますが、これはドイツの名レンズ、カールツァイス・ゾナー50mmF2を模造した、ロシア製のジュピター8Mですよ。1950年頃に大量生産されてたもので、ぱっと見、違いはわかりにくいですが、前玉を固定する銘板の形状が微妙に異なるんです」
ハゲタコ親父は顔を曇らせ、ぶつぶつと呟いた。
「ちぇ、いっつもこうなんだから。若いのになんでそんなに古いカメラやレンズに詳しいんだろうねえ」
「そりゃあ、これでも写真館の店主ですからね。次こそ、本物をお持ちになってください。高額で買取りますから」
「ふん」
ふてくされるハゲタコ親父から目を逸らし、改めて私の方に目をやった。
「ごめんごめん、待たせちゃって。で、どこが壊れたのかな?」
私に対してはタメ口だが、なぜか嫌な感じはしない。
表情が穏やかで、口調が優しいせいだろうか。
「写真を撮っても、真っ白な画像しか表示されないんです」
「そっか。ちょっと見てみるね」
『イケメン店主』はカメ吉の電源を入れると、手慣れた感じで操作する。
そしてものの数秒後には私に向かってカメ吉を差し出していた。
「はい、直ったよ」
「えっ!?」
カメ吉を受け取りながら、あまりの早さに唖然とした。
「と言ってもカメラの設定を変えただけだけどね。ここ、見てごらん」
カメ吉のダイヤルを指差しながら、顔を寄せてくる。
とたんにふっと磯混じりの甘い良い香りがしてドキドキした。
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